蜜柑畑
夏の陽炎はあまりにもあなたを輝かしく見せるので。
朝顔と水飛沫。
午前の太陽のもとにあなたは一日を生きていく。
フツウの日常が隣にそっと佇む男によって壊されることも知らずに。
生きていく。
夏はあなたの季節だから。
とても景色が霞んで見える。
青い山も、鮮やかな水鳥も、命の木々も、
すべて青いセピアに見えて古ぼけた写真のよう。
鮮明にフォーカスがあうのは、あなたの輪郭だけ。
7月の近い空を仰ぐとき、この村に静寂が訪れ、
ふと、風が吹くとき。
あなたはそれでも気がつかない。
舐める視線も触れた素肌も。
風の悪戯だと笑ってしまう。
あなたの立つそこだけ、別次元のように感じる。
触れてはいけない。そんな気がする。
あなたを抱き締められる家族がうらやましいと思う。
照れてはねのける手を、きっと放しはしないのに。
どうして私は動けずに、同じ空気を吸っては空言のような音を連ねているのだろう。
どくどくと、重い心臓が頭の中で。痛い。
満たされる日など来るのだろうか。
この痛みが小さな子供の呪文みたいに、飛んでいってくれるのだろうか。
鬱々と心の闇は増幅し続け、夏の空を染めてしまうのではないか。
笑顔の面はいつもある。穏やかな人間の振りをして、
息が詰まるほどあなたを想っている。