夏の残像
蜜柑畑は夏の花。
島の夕暮れ。
下る坂道。
桃源郷のようなこの村を、
まるで要塞のようだと、思う日が来るだなんて。
縛られているんだ、この村に。この自由に。
俺はここが好きだから。
彼を追うのを躊躇する。
彼は遠い。
そこにいるはずなのに。
昼過ぎの診療室はひどく静かで、
彼はひまわり畑の向こうから手を振って海へ駆ける。
幻覚だ。
あるのは机に伏せて青い空を恨めしく見る俺だけだ。
どうかこの想いに気づいて。
お願いだから気が付かないで。
あなたがこの時代を生きている奇跡を強く感じる。
もう辺鄙な言葉はいらないから。
「青」
そうひとこと。
俺の名前を。
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